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警察庁長官官房会計課工場

 会計課、というと何を想像されるだろうか。平たくいえば民間企業でいうところの経理・財務担当に相当する部局である。

 しかしながら、行政における会計課というのは民間と全く異なり、非常に大きな権限を有する。各府省庁の予算を仕切る部局がここだからである。予算と所管法令は官庁の力の源泉であり生命線である。従って、各府省庁の会計課長(宮内庁のみ主計課長)は、ごく少数の例外*1を除いて当該府省庁キャリアの指定席である。

 このように、各府省庁の会計課というのは、その組織の予算を統括する極めて枢要な組織であり、もちろん職員の給与といったことも担当するが、基本的には政治性の強い事務を所管するというのがお決まりである。

 しかしながら、こちらを読んでいただきたい。

警察庁の内部組織の細目に関する訓令

(工場)

第15条 長官官房会計課に、工場を置く。
2 工場においては、令第10条第11号に掲げる事務をつかさどる。
3 工場に、工場長を置く。
4 工場長は、命を受け、工場における事務を整理する。

(出典) https://www.npa.go.jp/laws/notification/kunrei/20180330/20180330naibusosikinosaimoku.pdf

 初めて見たとき、いささか目を疑った。会計課が「工場」を有するというのは、官庁についてある程度知っている人間からすれば全く感覚的に受け入れがたいものである。この「工場」が一体何を所管しているのか、前掲訓令第15条第2項にいう「令」に当たってみよう。ここでいう「令」とは、警察庁組織令のことである。

警察庁組織令(昭和二十九年政令第百八十号)

(会計課)
第十条 会計課においては、次の事務をつかさどる。
一 予算、決算及び会計に関すること。
(中略)
十一 拳銃の修理及び弾薬の製造に関すること。
(後略)

 これで疑問は氷解した。この工場とは、要するに武器工場であったのである。しかし拳銃の修理と弾薬作りを会計課が所管していた、という事実はあまり知られていないのではないだろうか。

*1:第一の例外が法務省大臣官房会計課長で、同ポストは裁判官出身者が検事に転官の上で就任する。これは旧司法省時代以来の判事と検事の一体的な人事運用によるものである。第二が防衛省大臣官房会計課長で、財務キャリアが就任している。これは、防衛省が最も新しい省であり、未だに防衛キャリアによる独立的な人事を確立しきれていないことによる。なお、次官ポストは防衛キャリアが旧内務系キャリアから奪還して久しい。