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内国郵便約款と年賀特別郵便と内容証明と

 内国郵便約款、という文書がある。郵政民営化がなされた今であれば、運送会社のHPに載っている宅急便の約款のようなものと基本的にはパラレルに考えてよいと思われる。

内国郵便約款

https://www.post.japanpost.jp/about/yakkan/1-1.pdf

 ここには郵便物の分類や料金などについての定めがある*1。読み物として楽しい、と私は思う。役に立つかどうかは微妙なところである*2

 この約款において、その第6章は「特殊取扱」という中々仰々しい名前に割かれている。なんのことはない、「速達」や「特別送達」、あるいは「特定記録」といったオプションサービスの類のことである。

 ここで、みなさんは年賀状を出したことがあると思う。多くの場合、いわゆる官製はがきである年賀状を用いていると思うが、あるいは普通の葉書や封書に「年賀」と朱書きしてこれに代えたことのある方もいらっしゃるかもしれない。これら全てが、内国郵便約款第5章第13節「年賀特別郵便」に規定される年賀特別郵便である。

 条文を引用する。

 第13節 年賀特別郵便

(年賀特別郵便の取扱い)
第146条 当社は、郵便物を12月15日から12月28日までの間に引き受け(引受開始日については、1週間を限度として繰り下げることがあります。)、料金別納又は料金後納とするものの場合を除きこれに翌年1月1日付けの通信日付印を押印し、翌年1月1日の最先便からこれを配達する年賀特別郵便の取扱いをします。ただし、通信日付印の押印は、その郵便物が料額印面の付いた郵便葉書であるときは、これを省略することがあります。
2 年賀特別郵便の取扱いは、次に掲げる郵便物につき、これをします。
 (1)第一種郵便物(郵便書簡及び料金表に規定する定形郵便物に限ります。)
 (2)通常葉書
 (3)点字郵便物(料金表に定める定形郵便物の大きさ、形状及び重量に準ずるものに限ります。)
3 年賀特別郵便とする郵便物(以下「年賀特別郵便物」といいます。)は、これを他の特殊取扱とすることができません。

(配達地域指定年賀特別郵便の取扱い)
第147条 当社は、年賀特別郵便であって、郵便物を12月15日から12月24日までの間に引き受け(引受開始日については、1週間を限度として繰り下げることがあります。)、通信日付印の押印を省略し、翌年1月1日の最先便でこれを配達する配達地域指定年賀特別郵便の取扱いをします。
2 配達地域指定年賀特別郵便の取扱いは、次に掲げる条件を満たす通常葉書につき、これをします。
 (1)お年玉付郵便葉書等に関する法律第1条第1項の規定によりお年玉付きとして発行されたものであること。
 (2)あて名の記載を省略したものであること。
 (3)同一差出人から、当社が指定する地域ごとの配達箇所数に基づいて、その一以上の地域の住宅等(翌年1月1日の最先便で配達すべき年賀特別郵便物(配達地域指定年賀特別郵便とするもの(以下「配達地域指定年賀特別郵便物」といいます。)を除きます。)があるものに限ります。)のすべてに配達するために差し出されたものであること。
 (4)当社が別に定める区分、把束、差出方法及び差出事業所に関する条件を満たすものであること。

(注) 第2項(4)の当社が別に定める区分、把束、差出方法及び差出事業所に関する条件は、次のとおりとします。
 1 差出事業所が指定するところにより、地域ごと又は一定の通数ごとに区分し、適宜の用紙にその地域の名称、郵便区番号及びその事業所が指示する事項を記載して、その事業所が
指示するところにより、これを郵便物とともに把束した上、その事業所が指定するところにより、地域ごと又は郵便区番号ごとにまとめたものであること。
 2 当社所定の書面を添えて差し出されたものであること。
 3 あらかじめ、その郵便物の配達事務を取り扱う事業所において配達すべきものとして差し出されたものの数量とその事業所において配達を完了したものの数量に過不足が生ずる場合があることを承諾して差し出されたものであること。この場合における残余の郵便物については、その事業所において差出人
が指定した地域以外の地域がある場合には、その地域の住宅等の全部又は一部に配達することがあり、なお残余が生じた場合には、その料額印面を消印した上、差出人に返還します。
 4 別記10に掲げる事業所又はその郵便物の引受けに関する事務に支障がない事業所として支社が指定したものに差し出されたものであること。

(年賀特別郵便物の表示)
第148条 年賀特別郵便物には、その旨を示す当社が別に定める表示をして差し出していただきます。ただし、通常葉書(配達地域指定年賀特別郵便とするものを除きます。)は、適当な通数ごとに1束とし、これに当社が別に定める記載をした付せんを添えて差し出すことができます。

(注1) 当社が別に定める表示は、郵便物の表面の見やすい所に「年賀」の文字を明瞭に朱記するものとします。この場合において、差し出そうとする郵便物が配達地域指定年賀特別郵便物であるときは、「配達地域指定」の文字及び差出事業所が指示する事項を併せて明瞭に記載していただきます。
(注2) 当社が別に定める記載は、「年賀郵便」の文字を明瞭に記載するものとします。

(年賀特別郵便の表示をして差し出された郵便物の取扱い)
第149条 第146条(年賀特別郵便の取扱い)第1項の期間内に、その表面の見やすい所に年賀なる文字を朱記して差し出された同条第2項(1)から(3)までに掲げる郵便物又は通常葉書を適当な通数ごとに1束とし、これに年賀郵便なる文字を記載した付せんを添えて差し出されたものは、年賀特別郵便物(配達地域指定年賀特別郵便物を除きます。)として差し出されたものとみなします。

内国郵便約款

https://www.post.japanpost.jp/about/yakkan/1-1.pdf

  要するに、12月15日以降に「年賀」と朱書きして差し出せば元日第一便で届けてくれる、というのが年賀特別郵便の条文上の本質であるということができる。

 ここで、法学部生ならば誰でも一度は夢想して欲しいところの「年賀内容証明郵便」というキワモノは実現不可能ということも分かる(146条3項)。なぜなら、内容証明も特殊取扱の一つだからである。

  しかしながら、規範があれば潜脱するのが我々である。きちんと抜け穴がある。

 第14節 配達日指定郵便

(配達日指定郵便の取扱い)
第150条 当社は、郵便物を差出人が指定した日に配達する配達日指定郵便の取扱いをします。
2 配達日指定郵便の取扱いは、次に掲げる郵便物につき、これをします。
(1)第一種郵便物
(2)第二種郵便物
(3)第四種郵便物(点字郵便物及び特定録音物等郵便物に限ります。)
3 配達日指定郵便とする郵便物(以下「配達日指定郵便物」といいます。)は、当社が別に定める特殊取扱以外の特殊取扱とすることができません。

(注) 第3項の当社が別に定める特殊取扱は、書留、引受時刻証明、配達証明、内容証明(点字内容証明を除きます。)、特別送達、特定記録郵便及び代金引換とします。

(配達日として指定できる日)
第151条 配達日指定郵便物の差出人は、差出しの日の翌々日(差出事業所が指定する地域にあてる場合又はその他の事由により差出事業所が別に指定する場合にあっては、その事業所
が指定する日)から起算して10日以内の日に限り、その郵便物の配達日を指定できます。

(配達日指定郵便物の表示)
第152条 配達日指定郵便物には、その旨を示す当社が別に定める表示をしていただきます。

(注)当社が別に定める表示は、郵便物の表面の見やすい所に「配達指定日何月何日」と明瞭に朱記(ただし、配達指定日が日曜日又は休日に当たるときは、「配達指定日何月何日」の次に「日曜日等」と明瞭に朱記)するものとします。

 内国郵便約款

https://www.post.japanpost.jp/about/yakkan/1-1.pdf

 すなわち、内容証明と配達日指定郵便を併用することで、元旦に内容証明をもって賀詞を交換できる。ただし、「年賀」と朱書きすると前掲年賀特別郵便として取り扱われてしまい、約款146条3項違反の郵便物となってしまいう。間違いのないように「配達指定一月一日日曜日等」と明瞭に朱書きしなければならない*3。いずれにせよ内容証明である以上当然に窓口での差出となるから、配達日指定郵便を併用する旨を職員に伝えればそれで足りよう。

冠省

賀 正

草々

 

  尊厳元年元旦*4

 

通知人代理人行政書士*5 何某

通知人 何某

 

被通知人 何某殿 

 なお、一つだけ注意すべきことがある。年賀特別郵便の場合、「翌年1月1日の最先便」(146条1項)に配達がなされるが、配達日指定郵便の場合はそのような限定はない。例えば、年賀状配達業務に忙しいなどの理由で第二便以降での送達とされてもなんら約款に違反するところはない。すなわち、せっかく「元旦」と書いても元旦に届かない場合がある*6ということになる。元旦という語の効力については発信主義が妥当する、というのをひとまずの結論とすべきなのだろうか、いやしかし年賀状というものは別に元旦に差し出してないよなあ、というのもあり。

*1:なお、ゆうパックは郵便物ではないので本約款の適用はない。反対に、レターパックは郵便物である。

*2:受取拒絶に関することについては別項で書きたいと思う。確認したところ、どうも約款に定めのない事項にわたって書かなければならないようで、そうだとすると本項の統一性を損なうことになる

*3:1月1日は必ず「日曜日等」に該当する。第一に日曜日である可能性があり、第二にそれと関わりなく国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)第2条ないし第3条の規定により休日となる。

*4:完全な余談として、この日付表記の遺言は学説上有効のはず。吉日とやるとダメだが。詳しいことは民法が好きそうな方のブログとかを参照されたい。私は民法に興味がない。

*5:どのような内容証明であれば通知人代理人に行政書士が就任できるかは面白い問題であるが、少なくとも「賀正」に紛争性が認められることはまずないであろう

*6:元日には届く